季節は秋、母―冴子は、その子を麦（ばく）と名づけた。小説家の父―記（しるす）と、胸の病をもつ母のふたりの深い愛情の中で生まれたひとつの命。その後、母の胸の病は小康を保っていたが、結果的には、その出産の無理がたたってしまった。麦が生まれた翌年の麦秋、母は息をひきとったのだった。妻に先立たれながらも、愛情深く育てあげてくれた父のもと、亡き母への愛を胸に、秋田麦、いま青春!!

レースには勝ったものの、足を骨折してしまったバクスター。四十名にも及ぶ獣医師団の完璧な手術にもかかわらず、麦のみとどけるなかバクスターは逝ってしまう。さまざまな想いを巡らせながら帰りついた札幌のアパート。そこにはやよいがひとり、麦の帰りを待っていた。思いもかけなかったやよいとの再会で突然始まった同棲生活は、一見、順風満帆のようにみえたのだが…。

麦とやよいのつかの間の同棲生活は、ある日突然、終わりを告げた。麦が大学から帰ってくると、彼女の姿はなく、残酷な事実を告げる置き手紙が待っていた。やよいは妊娠していたのだ。それも麦のではない子を……。麦との交際に反対する父の陰謀にはまった結果だった。その事実をも受けいれようと、上京して説得しようとする麦に、彼女は“この子を産むために、あなたと別れたい”と告げた。