——―今回のインタビュアーは編集担当のWです。まずは、漫画家になったきっかけをお聞かせいただけますか?
20代半ばくらいの時に勤めていたアルバイト先で、安野モヨコ先生の漫画『ハッピーマニア』が置いてあったんです。なんとなく読んでみたら、それまで読んできた少女漫画とまったく違うもので衝撃的だったんですね。
絵柄も大人っぽく個性的だし、夢見る少女の漫画と違って凄くリアリティのあるもので…。
その頃ってちょうど恋愛に悩むお年頃だったので、この作品が凄くピンときたのかもしれないです。
なんていうか…すごく心の救済になりました。なので、自分もハッピーマニアと同じように、恋愛に苦しんでる人の心の救済になるような漫画を描けたらなと思う様になりました。
————なるほど、それで今作も悩めるアラサー女性が主人公なわけですね!
今作の主人公・美緒は「恋の仕方やトキメキを忘れた」セックスご無沙汰女性ですが、読者さんからも共感の声が沢山届いてますね。
アラサー女子の恋愛について色々と世間のお悩みをさぐってみると、セックスご無沙汰どころか、ときめけない、恋愛感情にも発展しない…という人が多いというのがわかって。
自分もそういう頃があったので、より親身になって感情移入して描けるかなと思い今作の題材にしました。
また、セックスのご無沙汰については、海外ドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』を見た時に、こういう話題って万国共通なんだなと感じて。
本当にご無沙汰かどうかは別としても「自分てご無沙汰なのかも?」と感じてる女性が多いのではないかなと思い、お話の要素として取り入れました。
————今回はヒーローである真島も「ご無沙汰」な設定ですが、この設定にしたきっかけや想いはございますか?
色々なアンケートを見ると、現実には童貞の男の人が結構多いというのを知って…。当時、ファンであるみうらじゅんさんが「童貞の方が面白い!」と言っていたのもあり(笑)
その時に童貞の男の人の生態に興味を持ちました。ただ、童貞だとちょっと真島の設定上無理があるかな…と思ったのでセカンド童貞にしたという経緯があります。
————そんな真島の頭の中が駄々洩れなところが、今作の面白さだと思います。
男性側の心の中がこれだけ読める女性向け漫画は珍しいですよね。
以前から男性視点や男性の心の中が読める作品を作ってみたいなとは思っていました。
ただ、なかなか難しいので特に今作で挑戦するつもりはなかったのですが(苦笑)本当に偶然できたものですよね。
1話冒頭の合コンでの女性陣のシーンを気合い入れて描いてたら、なかなかヒーローである真島が登場するシーンまでが遠くなってしまって…。
それで担当であるWさんと打合せであーだこーだ相談して、「こうなったら合コン風景を男女両サイド描こう!」「その方がインパクトもあるし、男側の様子も見れて面白いかも!」と。そういう経緯で、真島視点が出来上がった感じでしたね。
————奇跡的にできたシーンでしたね!真島の心が全て伏せられていたら、だいぶ違う漫画になってましたよね。
そうだと思います(笑)ただ、駄々洩れなところを描くのは楽しいんですが、ついつい真島に感情移入し過ぎてしまって。
漫画として面白いのかわからなくなっちゃう時があるのと、っかり真島のターンが多くなってしまうのはには少々困っています…。
特にラブシーンは、自分の気持ちを物凄く盛り上げて真島になりきって描いています!
なのでお気に入りは4話で真島が性欲が爆発しそうでシャウトしているこのシーン(画像参照)ですね。
————冒頭の合コンシーンと言えば、男性陣の会話が妙に生々しくて面白かったですね。
桂さんの漫画はそういったシーンに物凄くリアリティがありますが、何かこだわりはあるのですか?
大学生くらいの頃に出会った、30代のとある男性の発言がきっかけになってます。
その人には「男はみんな浮気しない!好きな人としかヤらない!って言うけど、そういう”設定”になってるだけで、現実はみんなヤってるからね」って言われて…。
で、他の男の人にどうなの?と聞くと、みんな口をそろえて、「自分は浮気しない!好きな人としかヤらない!」って本当に言うんですよね。
その一連の流れを見た時に「そういう”設定”になっている」という事が妙に説得力を持ってしまって(苦笑)
当時はまだ自分も若くて、大人の世界を知らなかったので、現実の男の人は漫画やドラマとは違うんだ!と衝撃を受けたんです。
そんなエピソードもあって、そういう”男の人が女の人の前で堂々とは見せないリアル”を描きたいなと思うようになりました。
————生々しいわけですね!真島は外資系コンサルで働く、「超モテモテハイスペック男子」という設定ですが、こういった男性を描く上で何か研究とかはされましたか?
自分の周りにいるわけではないのですが、世の中の人の意見を色々と集めました。
たぶん女性側からするとこの「超モテモテハイスペック男子」ってかなり女性に対して評価が手厳しい人たちだと思うんですよね。
容姿や作法など…女性のスペックへの要求がとても高いというか。
より取り見取りで女性経験が多く、目が肥えているからこそだとは思うんですが。
私はそういうタイプの人たちがいる世界に身を置いていたわけではないので、逆にそういう男の人や世界にとても興味があるんです。
ちなみに美緒の職業である化粧品会社は…何かで見たランキングの男性からモテる職業ベスト3に入っていたからです(笑)モテそうな職業にしよう!と思って。
————ところで、今作は「男女の相性」にも焦点が当てられていますが、桂さんにとって、それはどんなものだと思いますか?
心がぴたっと寄り添える相性が良い人はどこかにいるのだろうけど、必ずしも人生で巡り合えるとは限らないと思っていて。
例え巡り合えてもタイミングや状況でうまくいかない事もありますし。
だからこそ、そういう人に出会えて、かつ最終的にうまくいったのならすごく幸せだなと思って。
なので、相性抜群な2人が奇跡的に出会うお話を描きたいなと思いました。ただ、相性が良くても簡単にはうまくいかないという部分も丁寧に描きたいと思っています。
その辺はリアリティのある展開になる予定です(笑)結論を言うと、私の思う「相性の良さ」を言葉で表現するのはとても難しいのでぜひ漫画の中の2人を見て感じとっていただきたいです…!
————確かに、言葉にはできない「しっくり感」てありますよね。
性の相性についてはどうお考えですか?
性の相性については、「好きじゃないと、恋人じゃないとヤってはいけない」的な考え方は私はあまり好きではなくて…。
好きな相手とじゃなくても、セックスそのものを尊いものというか、人間賛歌というか…。一つになる喜びみたいに表現したいなと思っています。
刹那的な…体だけでなく、その瞬間は気持ちも一つみたいな。
そんな風に感じられる瞬間をセックスシーンで描けたらなという気持ちはありますね。
————「相性」と言えば、真島の同僚・戸倉の、4話のこのやり取り(画像参照)も印象的ですね。
作中では戸倉と、川ちゃん(美緒の後輩)の恋の行方も気になります!
この2人はどういう経緯で生まれたんですか?
戸倉と川ちゃんは突っ込み役と言うか、狂言回し的な役割ですね(笑)
たぶん戸倉には結構、私が言いたい事を代弁させてるんですけど、彼がどんな風に川ちゃんとの恋愛を進めていくか?という事を描くことによって私自身のカタルシスというか…
こういう恋愛になったらいいなという理想が詰まっています。戸倉が一番共感できるキャラです!
————そんな風に桂さんご自身の恋愛観や恋愛経験も漫画に結構反映されていたりするのでしょうか?
以前は、自分の過去の恋愛で感じた事を漫画に詰め込もう、という気持ちが強かったのですが、今は読者さんが楽しいと思えるものを描こう、という気持ちが強くなりました。
私の恋愛経験がそのまま反映されているというよりは、過去の恋愛で「あの時こうだったら良かったのになあ、ああ言って欲しかったなあ」という願望が漫画に反映されてます。
実際に私に起きた悲しいエピソードや負の感情を漫画にするのではなくて、叶わなかった希望が叶っていく漫画の方が読者さんが楽しんでくれる作品になるかなと。
色々と過去はダメンズによって傷つけられて…。友人に「それはひどい」と言われるくらいダメンズに出会ってきたのですが(笑)そんな彼らとのお付き合いがかなり漫画の役に立っています。
————ダメンズとの過去も漫画作りのパワーに変えているのですね!
ちなみに、現在はご結婚されたとの事ですが、お休みの日などはどのように過ごされているのですか?
最近は漫画命ですね…ひたすらお仕事してます。とても幸せなことなんですけどね。
あ!でもたまにバンドのライブにいきます。激しいバンドが大好きです。一番の息抜きはヘヴィメタルですね。
大槻ケンヂさんが特にずっと好きで、高校生の頃から感銘をうけるところが多いです。自分で「表現をして誰かに伝えたい」という想いができたのも、大槻ケンヂさんに影響を受けた部分もあるかもしれません。
————漫画も描いて、家事も子育てもして…そのバイタリティーに感服です!
では最後に、読者の皆様へメッセージをお願いします。
たぶん現実というのは本当に退屈だったり厳しかったり忙しかったり大変だと思うんですけど、そんな中に一服の清涼剤としてただただ楽しんでいただけたらと思います。
桂タマミ先生、ありがとうございました!先生の人間に対する好奇心の強さや、人生経験を漫画に昇華させるパワーが刺激的です。
今後も予想外の展開が連続の「セックスご無沙汰、卒業します。」に、ぜひご期待ください!