古手屋「楽多堂」

店主の宗介が営む古手屋「楽多堂」は、役目を終えた古物を蘇らせ使えるようにして、それらの縁を繋げるためのお店です。古物を物々交換で手に入れることができて、町の人からは慕われています。

「毎度―楽多堂です」そこで働く主人公のシキビはお客様に古物を届けていました。綿入は、古物にしては上等と喜ばれます。お礼にシキビは、お客様から袋一杯にお芋をもらいました。「1人で大丈夫？」と聞かれたシキビは、「私、力持ちなんですよ！」と元気に答え、お店に帰りました。

酔っ払いに絡まれるが…

最近、町では首なし騒動という事件が起こっていました。そんな中シキビは、マントを着た青年が酔っ払いに絡まれている場面に遭遇します。「大丈夫ですか！？」シキビが近づくと、「助けてくれ…」と酔っ払いはシキビに掴みかかろうとしました。しかし、シキビは咄嗟に体が反応して、酔っ払いを地面に叩きつけます。

「あ…！つい…、どっどうしましょう」と言って赤面するシキビに対して、マントの青年は呆然とするのでした。

マントの代わりに赤い羽織

シキビは酔っ払いを担いで、楽多堂に帰ってきました。それを見た宗介は、何があったのか尋ねます。事情を説明したのは、酔っ払いに絡まれていたマントの青年でした。彼は「山本伊駒と申します」と名乗りました。

そのときお店にいた小説家の金丸は、浜校の教師時代に伊駒を見たと話します。さらに酔っ払いのことも知っていました。金丸は酔っ払いを家まで送り届けると申し出ます。

伊駒も金丸と一緒に行こうとしますが、シキビに呼び止められます。シキビは伊駒の汚れたマントの代わりに、「そろそろ夜は冷えますから」と赤い女物の羽織を手渡します。宗介は「マントは洗っておくから、あとで取りに来なさい」と伊駒に話すのでした。

人ならざるモノが共に生きて良い場所

2人を見送った後、シキビは伊駒がつかれているように見えたから手を出してしまったと宗介に話します。宗介は悪いモノと縁が生まれやすいシキビのことを心配します。申し訳なさそうなシキビに宗介は「口を開けなさい」と言って、あんぱんを食べさせました。シキビは宗介に優しくされて、とても嬉しそうな表情を浮かべるのでした。

宗介とのやりとりの中でシキビは、人ならざるモノも共に生きても良いと赦される場所があることは幸せだと思います。

シキビは伊駒に襲われてしまう…

夜がふけ、シキビは伊駒のことを思い出します。伊駒は緋い瞳に、白銀の髪と変わった容姿をしていて、顔色が少し悪かったと、伊駒が着ていたコートを見ながらシキビは思うのでした。

「まっこと美味しそうや」突然現れた伊駒に後ろから抱きつかれ、シキビは捕らえられてしまいます。伊駒はシキビの魔を惹きつける強い香りに惹かれて戻ってきたと話します。伊駒は昼に会ったときとは、顔つきも話し方も変わっていました。「その力、身体ごとわしが貰うちゃる」と言って、伊駒はシキビの首筋に噛みつきます。

伊駒の正体は犬神という名の祟り神

「ぐッ！なんやこりゃ…不味」伊駒はシキビに噛みつくと、すぐに離れてしまいました。そこに宗介が現れて、服がはだけてしまったシキビに自分の羽織を着させます。それから、シキビの名前は、魔除けにも使われている「樒」という強い毒を持つ木からつけたと伊駒に話します。

「魔除けやと？」それを聞いた伊駒は、とても食えたものじゃないと2人を睨みつけました。宗介は「お前、首をすげかえているな？」と言って、伊駒の正体を見破ります。それに対して、「わしゃァ、犬神―祟り神やき」と言って、伊駒は自分の正体を明かすのでした…。