3年前に85歳の夫を亡くした老女・たま子は、息子家族(息子夫婦と孫2人)と一緒に暮らしているが、何不自由ない生活でありながらも漠然とした不満を胸の内に抱えていた。嫁に頭の上がらない情けない息子と、何でも欲しがる新しいもの好きの嫁、そしてバイトやインターネットにうつつを抜かす浮ついた孫たち…ああ、私が若かった時代はこんなんじゃなかった…誰もが皆貧しく、自由はままならず、あらゆるものがもっとずっと厳しかった―――…そう、日本が太平洋戦争の泥沼へと突き進んでいく昭和のあの時代は……。そしてそんな、男女差別、食糧不足、義兄の戦死、姉の病死、東京大空襲…走馬灯のように胸中に去来するさまざまな辛苦の記憶のうち、たま子がどうしても忘れられないものがあった。それは死んだ姉夫婦の忘れ形見である、幼い甥の秀夫(ひでお)との戦火の中での生き別れの悲嘆……しかしまさか、今この時代になって、こんな思わぬ形で再会の機会が訪れるなんて―――…!? 圧巻のヒューマン長編!!(※本コンテンツは合冊版「戦争に引き裂かれた女たち 桐野さおりヒューマン・ドラマ作品集」の内容と重複しています。ご注意ください)