塚越照子(つかごし・てるこ/74歳)は、東京で夫と息子家族と共に暮らすごく平凡な高齢女性だったが、ある日、嫁の明美から町内会主催のイベントで『戦後60年・戦争体験者に聞く』というテーマで、自身の体験を語ってくれるよう頼まれる。照子は元々広島出身であり、中学2年のときに米軍によって原子爆弾が投下されたその現場にいたのだ。町内会役員である明美の顔をつぶしたくないと二つ返事で引き受けた照子だったものの、いざ当日、予定の数倍に及ぶ300人もの聴衆を前にして、さすがに緊張で足が震える思いだった。しかしいざ語り始めると、あの運命の「1945年8月6日」に体験したすべてが…あの恐怖が、あの衝撃が、あの苦しみが、あの悲しみが…まるで昨日のことのようにまざまざとよみがえり、照子は聴衆一人一人の魂に届けといわんばかりに、原爆の、戦争の残酷を叫び、万感の思いを込めて平和への願いを訴えるのだった―――…。(※本コンテンツは合冊版「戦争に引き裂かれた女たち 桐野さおりヒューマン・ドラマ作品集」の内容と重複しています。ご注意ください)